第88章 【青根 高伸】私の彼を紹介します。
「・・そっか。そうだよな。今更遅いよな」
「ごめんなさい」
翌日、私は彼を呼び出して自分の気持ちを伝えた。
「すごく。本当にすごく大好きだった。今まで本当にありがとう・・」
「やめろよ。お前にとって俺は最低な奴だったんだから・・」
泣かないって決めていたのに、涙が自然とあふれ出てきた。
そして彼も涙をためていた。
彼は最後に何か飲み物をご馳走する!と笑って買いに行ってくれた。ペットショップの前で待っていると伝え、お店に向かうと今一番会いたかった人の後姿。
私は泣きはらした目を拭ってそっと彼に近づくと、売却済みの札がかけられたゲージを見て眉間にシワを寄せていた。
「青根くん?・・あの子犬、飼い主見つかったみたいだね」
私が声をかけると、青根くんは驚いた顔で私を見た。
「寂しい?悲しい?」
私がそう問うと、青根くんはブンブンと首を振った。
「・・嬉しい。・・きっと幸せ」
そう言って、青根くんは少し微笑んだ。
「そうだね。素敵な飼い主さんに可愛がられるんだろうね」
青根くんはコクンと頷いて、空っぽになったゲージを見つめていた。
「あれ?ひろかちゃん?」
すると、後ろから二口くんに声をかけられた。
二人で部活帰りに寄り道をしていて、急に青根くんがいなくなったので、探していたと言う。
「ひろかちゃんはなんでここに?」
「あっ、私は・・」
「おーい、ひろか!!」
すごいタイミングでドリンクを持った彼が戻ってきた。
あっ・・・。
と全員が固まるのが分かる。
ここだけ時間が止まったようだ。
誤解を解かないと。そう思った時、青根くんが私の前に立ち、元彼を睨みつけ、指を差した。
「あっちゃ~。青根がロックオンしちゃったよ」
「ロックオン!?」
そして、青根くんは私の手を取った。
「ちょっ・・青根くん?どこに行くの!?」
私の声は届いていないのか、青根くんは何も言わずに私を連れ去った。
「いいんスか?追いかけなくて」
「いや、俺はもうとっくの前にフラれてるんだ」
「そうッスか」
「これ、飲む?」
「・・いただきます」