第88章 【青根 高伸】私の彼を紹介します。
「足疲れてない?」
「うん、平気」
電車に乗って私の家の最寄駅まで向かう。
優しい。彼は優しい。
ヒールを履いている私を気遣って声をかけてくれる。
「あの店、うまかったな!今度はさ、ひろかが行きたいって言ってたお店行こうよ」
私が行きたいと言ったお店は忘れないでいてくれるし、私が喜ぶことを全部してくれる。
「あっ・・・」
次の駅でお年寄りが乗り込んできて、席を立とうとする私に更に話を続ける。
「今度はいつ空いてる?俺、予約しておくよ」
「えっ・・えっと、再来週ならだぶん比較的空いてると思うよ?」
そう言って私はバッグから手帳を開いて予定を確認する。
ふと顔を上げると、さっきのお年寄りは他の乗客に席を譲られていた。
「送ってくれてありがとう」
家の前で私がお礼を言うと、彼は私をぎゅっと抱きしめた。
彼の使っている私の好きな香水の匂い。
大好きで仕方がなかった彼の匂い。
「ひろか、好きだよ。また俺と付き合ってほしい・・!」
彼の腕の中で、私は目を瞑った。
「はぁ・・」
夕食後、お風呂に入って私は自室のベッドの倒れ込む。
ピロン
携帯の着信音が鳴って、私は勢いよく身体を起こす。
携帯を開くと、元彼からの連絡が着ていた。
「返事を急がせてごめん。けど、俺は本気だから!」
私は携帯を握りしめたまま、その日は眠ってしまった。