第88章 【青根 高伸】私の彼を紹介します。
「青根くん、何見てるの?」
それからと言うもの、青根くんの部活がない日や早く終わる日にはデートをした。
「わぁ・・可愛い!青根くんって動物好きなの?」
ペットショップの前で子犬を見ながら、ブンブンと首を縦に振る青根くん。
子犬も青根くんの方に寄ってきて、嬉しそうにしっぽを振っていた。
「・・動物・・かわいい」
青根くんは時々、声も聴かせてくれるようになった。
“青根くんの方が可愛いと思うけど”
私は子犬に夢中な青根くんをじっと見つめた。
青根くんが私の視線に気づきこっちを見ると二人の目が合う。すると青根くんはバッと勢いよく身体を逆方向に向けて歩き出した。
「青根くん!?どっ、どうかしたの?」
私は駆け寄り青根くんの顔を覗くとすごく赤くなっていて、見ているこっちまで顔が熱くなる。
“やっぱり、青根くんの方が可愛いよ”
「ウケんだけど!!ぎゃはは」
すぐそこで、高校生らしき男子集団が大騒ぎをしていた。
青根くんはその集団に入って行き、一人の男性の肩を掴んでグイッと払いのけた。
「なんだてめぇ!」
喧嘩になる!そう思ったけど青根くんを見て驚いたのか、その集団は去って行った。
青根くんはその集団を見送ったあと、しゃがみこんで何かを見つめていた。
そこには彼らに踏み散らかされた花。
木の下に咲く小さな花。
私は青根くんの隣にしゃがみこんで、一緒に倒れた花を直した。
元通りとはいかなかったけど、さっきよりはだいぶマシになった。
その後、青根くんは私を家まで送ってくれた。
電車でお年寄りが乗ってくると、誰よりも先に席を譲る。
お年寄りが、ありがとうとお礼を言うと、青根くんはペコリと頭を下げる。
そして少し恥ずかしそうに顔を赤くさせて、そっぽをむく。
私はそんな青根くんを見て、ふふふと笑ってしまう。
“あいつのこともう少し知ってから答え出してやってくんないかな?”
あの日、二口くんにそう言われて、前よりずっと青根くんがどんな人か知った。
無口で不器用だけど、心優しくて、素直で、可愛い人。
いつも私をほっこりさせてくれる人。
この人なら信じてもいいのかな。
そんな風に思えていた。