第88章 【青根 高伸】私の彼を紹介します。
駅のホームで電車を待っていると、後ろから声がかかる。
「ねぇ、これから一緒にどっか行かない?」
そこには大学生らしき男の人がいた。
「あっ、いえ、結構です」
私はそう言って彼から離れようとすると、手首をガシっと掴まれた。
「そんなこと言わないでさ。ね?行こうよ!」
「はっ、離してください!」
どんなに振り払おうとして、力が強くて振り払えない。
助けて。
ぎゅっと目を瞑ると、次の瞬間、手首が解放された。
恐る恐る目を開けると、声をかけてきた彼の後ろに青根くんが立っていた。
青根くんは彼の肩を掴んでグッと後ろに押しやり、私との間に立って睨み付けていた。
「なんだよ、彼氏持ちかよ。なら早く言えよな」
彼はそう言って改札の方に走って逃げて行った。
「青根くん・・ありがとう。・・でもなんでここに?」
「・・・・・」
青根くんは無言のまま、ちょうど来た電車を指差した。
「えっと・・送ってくれるの?」
「・・・(コクン)」
そうか。私を送って行こうと改札を通ったら、私が絡まれていて助けてくれたのか。
青根くんはいつもピンチな時に助けに来てくれる。
本当に王子様みたい。
結局青根くんは私の家の前まで送ってくれた。
玄関の前でお礼を言うと、青根くんはまたコクンと頷いた。
「じゃぁ、またね」
私がそう言って玄関に向かおうとすると肩を掴まれた。
「青根・・くん?」
「・・・・・」
「どうかしたの?」
私が再び青根くんの方に身体を向けると、肩の上に置いていて手をゆっくりと下ろした。
しばらく沈黙が続き、青根くんはいつも以上に眉間にシワを寄せていた。
「・・・・佐藤さんが・・好きです」
「へっ?」
初めて聞いた青根くんの声。
その声が「私を好き」と言った。
青根くんはペコっと頭を下げて、それ以上は言わずに去って行った。
「青根くんが・・私のことを・・好き?」
一気に顔が熱くなって、私のその場にしゃがみこんだ。
「どっ・・どうしよう・・」
だんだん小さくなっていく青根くんの背中を見ながら、火照った頬を両手で触った。