第88章 【青根 高伸】私の彼を紹介します。
あれは数か月前。
「パンケーキって初めて食べたよ~」
私は友人と最近出来たパンケーキ屋さんに寄り道していた。
「ありがとね。元気出た」
「ううん。元気だしなよ?もっといい男はいるって!」
「いや、しばらく男はいいです・・」
私は先日彼氏と別れた。
原因は彼氏の浮気。
・・というか、私が浮気相手だったのだ。
彼女がいるのを隠して私と付き合っていたことが発覚して別れることになった。
友人に手を振って、私も駅構内に入って行く。
スマホでSNSをチェックしながら電車を待っていると、今一番会いたくない人と遭遇してしまった。
彼女と腕を組んで歩く元彼だ。
どうして忘れようとしている時に限ってこういう仕打ちを受けるのだろうか。
すぐに隠れてしまえば良かったんだろうけど、身体がいう事を聞かずに動けなかった。
彼と目が合って、その後すぐに目を逸らされた。
あんなやつ、別れて正解だって思うのに、どうして涙が出てくるんだろう。
大きな口を開けて笑う顔も、
腕時計を触る癖も、
横を通り過ぎた時に感じる香水の香りも。
全部全部大好きだった。