第85章 【澤村 大地】あの頃の幸せ
「澤村~!佐藤だぞ?懐かしいだろ?」
「・・佐藤!?おぉ、元気だったか?」
相変わらず短めの黒髪と、大きめの目。太目の眉。
でもどこか別人のようで、私達が会っていなかった時間を表しているようだった。
私は言われるがまま、澤村の隣に座ってお酌されたお酒を飲んだ。
そっと彼の左手を見ると指輪は無かった。
ホッとして、口元がニヤけてしまうのを必死に隠すためにお酒を口に含む。
「そーいえば、お前たち中学の時付き合ってたんだっけ?」
近くにいた同級生の男の子が私たちにそう言った。
「いや、付き合ってないぞ?」
動揺もせずにそう言って、クッと熱燗を口に含む澤村。そんな澤村を見て少し残念な気持ちになる。すぐに別の話になって周りのメンバーが盛り上がっていると、澤村と目が合った。
「まぁ、俺は好きだったんだけどな。佐藤の事」
ハハと笑って、私にお酒を注いだ。
「わっ・・私も!!私も・・好きだったんだよ、澤村の事」
「・・マジでか」
澤村はちょっと照れたように頬を掻いて笑った。