第84章 【黒尾 鉄朗】素敵な靴で出かけよう
「・・頭痛い。二日酔いだ……」
頭を抱えてベッドから起き上がると、自分の部屋でないことに気がつく。
そう言えば昨日、背の高い男の子に絡んだ気が・・・。
ふと顔を上げると、ソファに男の子が眠っていた。
「あっ…あの・・・」
彼に近づいて肩を叩くと、んっ。という声と共に彼が目を開けた。
「あっ、起きたのか。おはよーさん。・・って、ぶっ!」
「えっ!?何?どーしたの?」
急に吹き出して笑う彼は、ソファから立ち上がり洗面台からメイク落としと綿棒を持ってきた。
「枕に埋まって泣くから、メイクひどいことになってんぞ?」
私が慌てて鏡を見ようと立ち上がるのを阻止して、彼は私をソファに座らせた。
開いたスペースに彼も座り、ゆっくりと綿棒にメイク落としを染み込ませた。
左手で顎を上げられて、右手に持った綿棒を目元に当てる。彼の顔をすごく近くて、目線をどこに向ければいいのか分からない。
「なーに、緊張してるんですか?おねぇーさん?」
彼はニヤリと笑ってそう言った。
「そりゃぁ…緊張するよ。男の子にメイク直してもらうなんて初めてだし、それに・・・」
「それに・・・?」
「ちっ・・・近い・・から・・」
彼は私を見てケラケラと笑う。
バカにされたみたいで悔しくて、自分でやる!と私は彼から綿棒を奪った。
洗面台まで行って、崩れたメイクを落としていると、彼が背後から近づいてきた。ぐっと腕が伸びてきて、私は身体をぎゅっと縮めた。
彼の伸びてきた手は洗面台の上にきれいに並べられた歯ブラシを捉えて離れて行った。
「何をビクビクしてんの?昨日はあんなに俺を誘ってたのに」
「えっ!?」
私が勢いよく振り返ると、また彼はニヤリと笑う。
「覚えてないとか酷いな~。あんなに熱い熱い夜を過ごしたのに~」
そう言って歯ブラシを口に含み、ソファに向かって行く彼の背中を見ながら自分の記憶を探る。・・けど、全然思い出せない。
「ブッハ!冗談だっての。俺ソファにいただろ」
私はホッとして再び鏡でメイク落としを続けた。