第84章 【黒尾 鉄朗】素敵な靴で出かけよう
「ちょっと、ここで待ってろ」
ホテルから出て少し離れた所で、彼はそう言って去って行った。
数分後、彼が戻ってきて私の前に跪く。自分の太腿に私の足を乗せて、コンビニ袋から出した絆創膏を私の靴擦れした部分に貼りつけた。
「まだ痛いか?」
「少し。けど、歩けるから大丈夫!」
そうか。と優しく笑って、彼は私の手を引いた。
彼は近くの靴屋さんに入って、新しい靴を一緒に選んでくれた。
私らしい、ヒールのない柔らかい靴。
2人で新調した靴を履いて街に出た。
たくさんの人が賑わう渋谷駅。
いつもは人に酔ってしまうのに、今日はとっても気分がいい。
二日酔いの頭痛もなくなっていた。
「ねぇ、これからどこに行くの?」
「さぁな。素敵な靴が導いてくれるんだろ?」
私達は手を取り合って、前へ進んだ。
人ごみの中のちっぽけな私達。
なのに、ここだけに光が当たっているかのようにキラキラしている気がする。
半歩前を歩く彼の横顔を見上げる。
そう言えばこの子、誰なんだろう。
名前も年齢も何も知らない彼と手を繋いで、私はどこへ向かうんだろう。
もう、どうにでもなれ。
昨日と同じセリフなのに、どうしてこんなに表情が違うんだろう。
「なぁーに、笑ってんですか?おねぇーさん?」
「ん?なんでもないっ」
ふふふ、と私が笑うと、彼も隣で笑った。
「ところで…」
彼が私の顔を覗き込んで、またニヤリと笑う。
「おねぇーさん、お名前は?」
「・・・ひろか。佐藤ひろか!」
「ひろかさんね。俺は黒尾鉄朗。よろしくどーぞ」
ぺこっとお辞儀をして、彼はまた私の手を引く。
「ねぇ、てつろーくん」
「ん?」
「・・・ううん。なんでもない」
何も聞かないんだね。
なんて言うのは野暮な気がして私は黙った。
今はただ、彼の隣で笑っている私がいる。
婚約破棄された次の日に別の男性と手を繋いで笑っている私って最低かな。
まぁ、いいか。
もう、どうにでもなれ!!!!
TheEnd