第83章 【黒尾 鉄朗】素敵な靴を探しに行こう
「てつろー!お姉さんといい事しよーよー」
彼女は俺の頬にキスをして、足をバタバタと揺らす。
はいはい。と流す俺に、頬を膨らませて拗ねる。
どっちが年上なのか分からない。
「そのハイヒール、可愛いじゃん」
俺は話を逸らそうと両手に持っていたハイヒールを眺めたそう言った。
「あぁ、これ?ふふふ、いいでしょ。高かったんだ~!12万!!」
「じ ゅ う に ま ん ! ?」
俺の反応に彼女はケラケラと笑う。
「素敵靴はね、履いている人を素敵な所に連れて行ってくれるんだよ?」
ぶらんと下がっていた両手がグンと勢いよく上がって、彼女の重心が後ろに移動する。
「あっ、ぶねー。ちゃんと掴まってろよ」
腰を90度に曲げて彼女の重心を立て直すと、少し冷や汗をかいた俺にぎゅっと掴まって、これでいい?と顔を覗いて来る。
「…で?おねぇさんはどちらへ行かれるんですか?」
「うぅ~ん。てつろーの家!」
「俺実家ですけど」
ちぇっ、とまたそっぽを向く。
「せっかく素敵な靴で出かけたのに~。てつろー、素敵な所に連れてってよ~」
そう言ってまたバタバタと足を動かし、ねぇねぇ。と甘えた声を出す。
「そのハイヒール履かなきゃ素敵な所行けないから、俺にハイヒール履かせて?」
なんて冗談を言ってみる。彼女はそれもそうか!と笑う。ふふふ。と耳元で笑う彼女の声は柔らかくて少し心地よい。
「あぁー!てつろー!お城!お城発見しました!!」
そう言って彼女が指を指す方を見ると、ブルーのライトに照らされたホテル。外観は無駄にお城のような作りになっていて、休憩・宿泊と書かれている。
「あれ、ラブホだろ」
「お城だよ、てつろー。夢壊すな!ねっ、お城に行こう?」
「だーめ」
「・・・ねぇ。お願い。何もしないから・・・」
そのセリフは普通男がするもんだろ。と思いながらも、さっきまで笑っていた彼女が今にも泣きだしそうにぎゅっと俺の肩を掴むから、俺はとりあえず彼女の要望を飲んでやった。