第83章 【黒尾 鉄朗】素敵な靴を探しに行こう
家路を急いでいると、道端にキレイめのワンピースを着た女性がいた。ペタッと地べたに座って、ハイヒールを脱いでいる。
酔っ払いか。そう思って見て見ぬふり。俺はその女性の前を通り過ぎ、スタスタと家路を急ぐ。
しかし、人間と言うものは不思議な物で、関わりたくないと思っていても興味本位で、結果を知りたくなるものだ。
俺が振り返ると、その女性はコクンコクンと船を漕いでいた。
昔からのくせなのか、元々の性格なのか。こういう部類の人間をほっとけなくて俺は来た道を戻る。
「おねぇ~さん?こんな所で寝てると風邪ひくぞ?」
俺がそう言って彼女の肩を揺らすと、ゆっくり目を開けて、寝てないもん。と訳の分からないウソをつく。
「じゃぁ、こんな所で一人で居たら、俺が襲っちゃうけど?」
少し意地悪にそう言ってにやりと笑った。
すると彼女はジッと俺を見て、ふにゃっと顔を崩して笑う。
「襲ってくれるの?ありがと~」
そう言って俺に抱きついてきた。
「おねぇさん?俺は赤面して抵抗する反応の方が好きなんだけど」
「ハハハ。若いね~。もう一つ先の扉を開いた方がいいよ」
ね?と言って、この酔っ払いのおねぇさんは笑う。
年頃の男子高生としてはとても興味深い誘いだが、今日の黒尾さんはそのお誘いには乗らない。俺って大人だろ?なんて自分を誉めてやる。
「とりあえず、家どこ?」
「家は・・ない!」
「はぁ?」
抱きついていた腕を離して、そっぽを向く彼女に俺は大きくため息をつく。
「帰りたくないのか?」
俺がそう聞くと少し黙って、コクンと頷いた。
訳ありか。そう悟って、俺はしゃがんだまま彼女に背を向けた。
「帰らなくていいからとりあえず乗ってください、おねぇさん」
肩越しに見る彼女の顔が少し動揺していて、ぷっと吹き出してしまう。
「ほら、早くしねぇと警察呼ぶぞ?」
「・・やだ!」
ドンと勢いよく背中にダイブ。やだ!とか子供かよ。そう思いながらグッと下半身に力を入れた。
これが、今現在見知らぬ女性を背負うことになった経緯である。