第80章 【澤村 大地】カフェオレ
家の前まで来ると、大地くんが外で立っていた。
「ひろか・・・」
気まずそうに私を見て、黙ってしまっている大地くん。私は一度大地くんから目線をそらして玄関の扉を開けた。
ちらっと大地くんを見ると鼻の頭が赤くなっていて、ずっと待っていたんだと分かる。
「・・・うちに来る?」
扉の前で大地くんにそう言うと、小さな声であぁ。と返ってきた。
私は自分の部屋に大地くんを通して、大地くん用にブラックコーヒーと自分用にホットミルクを持って行った。
沈黙が続いて、先に口を開いたのは私だった。
「今日はごめんなさい」
せっかく街まで出てきてくれた大地くんに対しての態度ではなかったと謝った。
「及川と・・本当に付き合ってるのか?」
大地くんのまっすぐな目が私の身体を、うっ…と固めた。
私が黙っていると、また大地くんが大きく息を吐いた。
「俺には…ひろかが誰と付き合おうが関係ないか・・」
そう言って寂しそうな顔でコーヒーに口を付けた。
そんな顔をするのは正直ずるい。
「大地くんは・・私のことどう思ってるの?」
「そりゃぁ、昔から一緒にいるから…大切に…思って…る」
歯切れの悪い大地くん。
いつもの大地くんとは全然違って、なんだか少し可笑しくなっちゃう。
男らしい大地くんも、頼もしい大地くんも、優しい大地くんも、結構負けず嫌いな大地くんも、色んな大地くんを見てきたけど、こんな大地くんは始めて見た。
そんなちょっとかっこ悪い大地くんまでも好きだと思ってしまう自分が悔しい。
「けど今は正直、まだそういう対象に思えてない」
「うん」
「けど…それでもやっぱりひろかが違う男と一緒にいると面白くないし、イライラする」
うぅ…と頭を抱える大地くん。
私は及川さんの言葉を思い出していた。
「ねぇ、大地くん」
私は右手にホットミルクを、左手にブラックコーヒーを持った。
「私のこと今後好きなる可能性はあるの?」
そう言って右手のホットミルクを差し出す。
「それとも、全く見込み無しなの?」
そう言って左手のブラックコーヒーを差し出す。
大地くんの前に差し出した両手。
「・・・どっちですか?」
震える手を必死に抑えて、ぎゅっと目を瞑った。