第80章 【澤村 大地】カフェオレ
ふっと片手が軽くなる。
ゆっくり目を開けると、右手からコップが無くなっていた。
「そりゃぁ…あるだろ。これからはちゃんとそういう対象としてひろかと接するつもりだし・・・」
そう言って大地くんはホットミルクを一口飲んだ。
「・・じゃぁ、私・・まだ大地くんのこと好きでいてもいいの?」
私がそう言うと、大地くんはちらっとこっちを見て困った顔で笑った。
「迷惑・・じゃない?」
「迷惑なわけないだろ」
少しホッとして、張り詰めていた緊張が解けた。
ポロポロ涙が流れてきて、大地くんが優しく笑って私の頬を拭った。
「また妹扱いする・・」
私は大地くんの手を払いのけて、ブラックコーヒーを口に運んだ。
「苦っ!!」
「ハハ。ほら、交換するぞ?」
大地くんが私の持っていたブラックコーヒーを手に取ろうとするので、私は自分のほうへ引き寄せた。
「だめ!これを大地くんが飲んじゃったら、さっきもらった答えが変わっちゃいそうで怖いもん…」
私は意地でも飲んでやる!と息を止めて、またもう一口飲んだ。苦さで眉間にしわが寄る。
「おいおい、無理するなよ・・」
呆れた顔で私のコップを押さえつけて、大地くんが持っていたホットミルクをゆっくりと注ぎ足した。
「これなら飲めるだろ?」
ブラックコーヒーにミルクが加わってカフェオレになった。
「また・・妹扱いする・・」
私はカフェオレを見て、頬を膨らませた。
「・・いちお、妹扱いじゃなくて、女の子扱いなんだけどな」
ハハ、と眉を下げて笑う。
その顔ずるいよ。
私はゆっくりと大地くんが作ってくれたカフェオレを飲んだ。
おいしい。
けど絶対にそんなことは言わない。
だって、カフェオレは今の私たちの関係にとっても似ていたから。
でも、いつか白黒ハッキリする日が来るまでは、ほろ苦い中にも甘さがある、このカフェオレみたいな関係を過ごすのも悪くないかもしれない。
TheEnd