第80章 【澤村 大地】カフェオレ
「・・・いやっ!・・あっ・・ごめんなさい」
私はつい及川さんの胸を押し返してしまった。
「ハハ。よかった。このまま嫌がってくれなかったらどうしようかと思ったよ」
そう言って及川さんはちょっぴり困った顔で笑った。
「ひろかちゃんはさ、今でも主将くんのこと好きなんでしょ?もちろん、新しい恋をするのもいいけど、無理に他の人に気持ちを向けなくてもいいんじゃないかな?自然といつか他の人を好きになるまでは、主将くんの事を好きなままでもいいんじゃない?」
そう言って、及川さんは私の頭を撫でてくれた。
「なーんて。これは自分に言い聞かせてるんだけどね!」
ハハと笑って、及川さんは頬を掻いた。
「俺もね、幼馴染の姉さんみたいな存在の人が好きでさ。けど、俺の実の兄と結婚したんだよね。及川さん、大失恋!」
可哀そうでしょ?そう言って笑ってみせた。
私と似た状況にいた及川さん。ううん。私なんかよりももっともっと辛い思いをしたんだと思う。私は背伸びをして、及川さんの頭を撫でた。
「ハハ。ありがとう、ひろかちゃん…」
そう言って少しの間、及川さんは黙っていた。
「じゃぁ、またね」
「はい」
私達は改札でお別れをした。
改札をくぐった後に振り返ると、及川さんはまだ私に手を振っていて、ふふと笑顔がこぼれてしまった。
「及川さんみたいな人に好かれる女性は幸せだろうな…」
そんなことを思いながら私は電車に乗った。