第9章 【月島 蛍】兄貴はずるい
「兄ちゃん!」
駅のホームには、大きな荷物を持った兄貴とひろかの姿があった。
「兄ちゃん、ひろかは僕のものだから。兄ちゃんには渡さない」
「おっ、おい!」
僕はひろかの手を引き、駅を出た。
「・・・・・」
さっきから、どちらも口を開くことなく、ただ歩いた。
さっきかいた汗が引いて、少し寒いくらい。
けど、繋いだ手からはひろかの体温を感じられた。
家の前に着き、僕はひろかの手を離した。
ひろかはじっと僕を見つめている。
「ひろかは…僕のだから、これからは他の男とあんまり近づかないで」
「…いや」
初めてひろかが僕の申し出を断った。
昔から、なんだかんだ僕の希望に合わせてくれていたひろかが。
「…ちゃんと言ってくれなきゃわかんないよ」
僕の制服の袖を掴んで、じっと僕を見つめた。
どうやらひろかは僕からの言葉が欲しいようだ。
「言わなくても、わかるでしょ。普通…」
「わかんないもん」
僕はひろかを抱き寄せて、耳元で今まで一度も言えなかった想いを伝えた。
「1回しか言わないからちゃんと聞いててよね?」
「ひろか・・・・・・だ」
「私も…」
僕たちは更に強く抱きしめあった。
「ねぇ、そろそろ離してくれない?」
「まだだめ」
顔の火照りが引かないこの顔を絶対ひろかには見せられない。