第9章 【月島 蛍】兄貴はずるい
「ツッキー!ご飯食べよっ!」
いつものように山口が僕の元へやってきた。
「明光くん、今日帰っちゃうんでしょ?寂しくなるね」
兄貴は周りからいつも慕われていた。
いつも笑っていて、誰にでも優しかった。
友達もいっぱいいた。
僕に無いものを何でも持っていた。
「「おつかれっしたー」」
部室で着替える俺の横で、山口が携帯を見て大声を出していた。
「ツッキー!明光くん、7時発の電車で帰っちゃうの!?
早く行かないと間に合わないよ!?いいの?」
兄貴からのメールなのか。山口は僕を急かした。
「いいよ、別に」
そう言った僕の胸ぐらを掴んで山口が怒鳴った。
「良くないよ!ツッキーわかってる?今どんな顔しているか。
いつもみたいに、余裕な表情で笑ってよ!
そんな…そんな泣きそうな顔しないでよ!」
そう言って、山口は僕の荷物を部室の外に投げやり、
僕も外に追い出された。
「ハハ…かっこわる」
僕は荷物を抱えて駅までの道を走った。
部活でもこんな全力で走ったことがあっただろうか。
苦しい。けど、それよりも苦しいことがある。