第80章 【澤村 大地】カフェオレ
「あの・・・マネちゃん?」
デパートに入ってしばらくした頃、及川さんが声をかけてきた。
私は咄嗟に、掴んでいた腕を離した。
「すいませんでした。もう、大丈夫です…」
「えっと…君は主将くんの妹さんなの?」
「いえ・・・」
私が今までの経緯を話すと、及川さんは私の手を取った。
「ね、付き合ってあげたお礼に今度は俺に付き合ってよ!」
そう言って及川さんは私の手を引いて歩き始めた。
「ひろかちゃんって言うんだ!可愛い名前だね」
「ねぇねぇ、これ着てみてよ!・・・やっぱり可愛い!似合う!」
「次はこっち、こっち~」
私は及川さんのペースに振り回されていた。
けど、及川さんのおかげでいつの間にか私は笑っていた。
「あっ、ひろかちゃんやっと笑った!笑った方がずっと可愛いよ!」
そう言ってウインクをする及川さん。
この人がモテる理由が分かった。
もちろん外見も優れているけど、いつも相手が欲しい言葉をくれるんだ。すごく優しい人なんだって思った。
今だって私のために楽しませようと頑張ってくれている。今日初めてちゃんと話す私に、ここまでしてくれる及川さんを心の底から素敵だなって思った。
あれから数時間が経って、外は少し暗くなっていた。
「ねぇ、ひろかちゃん!今日楽しかった?」
「はい!本当にありがとうございました!」
私がお辞儀をすると、及川さんは私の手を握った。
「ねぇ、俺たち本当に付き合っちゃう?」
「えっ…?」
「ひろかちゃんも主将くんのこと忘れたいんでしょ?失恋の痛みは新しい恋で癒すんだよ!」
そうだよな。
及川さんは大地くんと違って、女の子の扱いも慣れてるし、鈍感じゃないし、私のことを女の子として見てくれる。
大地くんより及川さんの方がきっと幸せにしてくれる・・・。
「ひろかちゃん…」
及川さんの顔がゆっくりと近づいて来る。これってキスするってことだよね?
私にとって初めてのキスだ。及川さんの顔が後数センチになって、グッと目をつぶる。