第79章 【縁下 力】あの頃描いた未来
「力~、遅れるよ?」
向こうの大学は9月からなので、それまでは提携している東京の学校で留学のための勉強をしていた。同じく東京の大学に進学した力の部屋に転がり込む形で私たちは同棲をしていた。
「今日何講?」
「3講。その後バイト」
「ご飯は?」
「食べずに帰ってくる」
私は玄関まで力を見送った。
「いってらっしゃい、あなた」
ふざけてそう言うと、力はバーカと笑ってキスをしてくれた。
閉まって行くドアの隙間から私に手を振る力を見て私は微笑み、完全に閉まったドアを見て大きくため息をついた。
半年間なんてあっという間で、ついにアメリカへ発つ日を迎えた。
パスポートと大きな荷物を持って空港に向かう。
「講義、大丈夫?」
「うん。今日はサボる」
力はそう言って、私の大きな荷物を持ち上げてマンションの階段を下りた。
一緒に改札をくぐって、少し込み合った車内に乗り込む。
私を安全な場所を誘導して、私を守るように力は立つ。
見上げる私に微笑む力。いつもの力だ。
これからいつものように街でデートをするみたいだ。
・・・でも、違うんだ。
車内のアナウンスが聞こえ、ふと周りを見渡すと、車内はいつの間にか人がちらほらいるだけになっていた。
昨日まで嫌だと思っていた込み合う電車。
今では力との距離が縮まって、守られているなと感じられる場所なんだよな。と恋しく思ってしまう。