第79章 【縁下 力】あの頃描いた未来
「力~、ごめん。扉開けてくれる?」
お盆を持って部屋に戻った私はドアノブを握れないことに気がつき、部屋の中にいる力に開けるようにお願いをした。
キィと音が鳴って扉が開くと、力がすごく苦しそうな表情をしていた。
「力!?どうかした?具合でも悪い?」
私は持っていたお盆をテーブルの上に置いて、立ち尽くす力の方を振り向くと、力は私が先日先生から頂いた海外の大学の書類を持っていた。
「・・それ、どうして」
「ひろかが勢いよく扉閉めたから落ちてきた」
「・・見たの?」
「見た」
そう言うと、力がその書類をドンっとテーブルに叩きつけた。
「どうして黙ってたの?」
力がすごく怒っている。
長い長い沈黙が辛くて、今にも泣きだしそうだった。
「資料としてもらっただけで、私は行くつもりなかったし…」
「嘘だ。ならなんでこの書類を取っておいたんだよ。行きたいんだろ?自分の将来なんだから、ちゃんと考えろよ」
「じゃっ、じゃぁ、力は私と4年も離れ離れになっても平気なの?」
「そういう問題じゃないだろっ!」
「そういう問題だよ!英語なら日本でだって学べるもん!私の人生なんだから、力には関係ないでしょ!私はS大に行くの!そう決めたの!!」
私はテーブルの上に置かれた書類を奪い取って、くしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨てた。
力は大きくため息をついてその書類を取り出し、テーブルの上でシワを伸ばした。
「俺と一緒にいたいってだけで、こんなチャンス棒に振るのか?」
手のひらで書類を伸ばしながら、私の顔をジッと見る力。
怒ったような顔。
どうしてそんな顔をするの?力は私と一緒にいたくないの?
さっきあんなに優しい笑顔で私たちの将来の話をしていたじゃない。