第78章 【烏養 繋心】Flavor
それから毎日携帯をチェックした。
SNSではなくて、着信がないかどうか。
携帯が鳴るたびに勢いよく開くけど、本当に連絡が欲しい相手からではなく、いつもため息が出る。
誰かから連絡があってガッカリするっていう感情は初めてで、どうしたらいいか分からない。
「はぁ・・・」
大きくため息をつく。
マンションの前まで来て、ふと顔を上げるとそこには金髪の男性がしゃがんでいた。
「・・・繋心さん?」
私の声に反応して男性が顔をあげると、やっぱり繋心さんで、私は彼の正面に同じくしゃがみこんだ。
「どうかしたんですか?」
私がそう問いかけると、彼はジッと私の顔を見た。
「えっ・・あの・・・」
私が戸惑っていると、繋心さんの両手が伸びてきて、私をぎゅっと抱き寄せた。
ガサッと言う音と共に地面に落ちたコンビニの袋、転がる缶ビール。
私が咄嗟に手を伸ばそうとすると、繋心さんが口を開いた。
「今日、負けたんだ…インターハイ」
彼の腕にぎゅっと力が入った。
「俺がもっとコーチとして、ちゃんと実力があったら・・・どうにかなってたのかな」
いつもは腹が立つほど喧嘩腰なのに、今日の繋心さんはすごく弱っていて、私の心臓はまたズキンと痛くなった。
「・・・不甲斐ねぇな」
分かってる。
コーチをするために、朝早くから畑仕事をしていること。
夜は練習メニューや攻撃パターンを研究していること。
その全部を無償でやっているのは、誰よりもバレーが好きだから。
分かってる。
元監督のおじいさんと自分を比べて、いつも自分を責めていること。
選手の気持ちが理解できるからこそ、いつも葛藤していること。
辛くなるのに続けているのは、誰よりもバレーが好きだから。
私はぎゅっと彼を抱きしめ返した。
何も言葉は出てこなかった。
ただ、彼を抱きしめたかった。
彼の痛みが少しでも私にうつってしまえばいいのに。そう思った。