第78章 【烏養 繋心】Flavor
「寒いし、うち入ろう?」
私は彼の腕を引き上げて部屋へ入った。
「今お茶入れますね」
玄関を閉め、キッチンに行こうとする私を繋心さんは引き留めた。
「お茶はいいから、ここにいろ」
そう言ってまた私を腕の中にしまい込む。
私はゆっくり彼の背中に手を回した。
しばらく抱き合った後に、スッと顔が近づく。
目を閉じると、冷え切った彼の唇が当たった。
「んっ、たばこ臭い…!」
「あっ、わりぃ」
そう言うと、彼は自分の服の匂いを嗅ぎ始めた。
私は再び彼を抱きしめ、その匂いを嗅ぐ。
「・・・でも、嫌いじゃない」
私がそう言うと、繋心さんはハハっと笑った。
「お前も変な女だな」
「お前じゃないし!ひろかだし!…それに、そんな変な女にキスしたのそっちじゃん」
私は彼の腕の中で、頬を膨らませた。
「お前にずっと会いたかったし、連絡もしたかったけど・・・」
分かってる。
不器用なあなたはまず目の前にある自分の仕事を優先したんでしょ?
「今日、試合で負けて、あいつらを見てると俺まで苦しくなって。そんな時、真っ先に浮かんだのが、お前の顔だった。・・・俺、お前の事、好きだわ」
彼のまっすぐな瞳に私は目を逸らすことが出来なかった。
「・・・知ってるし」
「はぁ?可愛くねぇな」
「そんな可愛くない女が好きなのはそっちじゃん」
お互いムッとした後に笑い合い、また顔を近づけた。
「ひろか・・・」
こんな時だけ名前呼ぶのはずるい。
私はたばこの匂いがするキスをもう一度もらった。
TheEnd