第76章 【菅原 孝支】ウインザーノット
「だっ、大地ごめん!!俺ちょっと行ってくる!!」
俺は部活が始まる直前に音楽室に向かった。
「ひろか・・・」
演奏会当日、朝から吹奏楽部は会場に向かう。
出発前に声を掛けたかった。
「ひろか先輩!ネクタイ結んでくださ~い」
ひろかに声をかけていたのは、前にひろかにネクタイの結び方を伝授されていた1年生の男子部員だった。
「もう…。しょうがないな。今度はちゃんと自分で出来るようになるんだよ?」
そう言ってひろかは男子部員の首元に手を回した。
今にも抱きしめそうな勢いの態勢に俺はう゛っと身体を固めた。
ひろかにネクタイを結んでもらえて、ご満悦な彼の顔を見て大人げなくムッとしてしまった。
「ひろか先輩!俺も俺も!!」
さっきまでキレイだったネクタイをわざとに崩した男子部員達がひろかの前に列を作っていた。
困った表情で笑うひろかと目が合う。
「ごめん!他の子にやってもらってくれる?」
わざわざ列を作った男子部員達をあしらって、俺の方へ駆け寄ってきた。
「孝支、どうしたの!?部活は?」
一言声を掛けたかった。頑張れよって言いたかった。
けど、への字に曲がった口が元に戻らない。
「俺も・・・俺もブレザーの学校に通えばよかった!!」
は?と言うひろかのおでこにデコピンをした。
痛い!と両手でおでこを押えたひろかに、少しムッとした顔を見せた。
そして、ひろかのネクタイを解いた。
「ひろかのは俺がやるっ!!」
えっ?と驚いたひろかは慣れない手つきの俺を心配そうに見ていた。