第74章 【岩泉 一】私の言う事は・・・?
「岩泉先輩と手を繋げるなんて、嬉しくて死にそう」
ひろかがそう言って見上げると、岩泉の顔が自分よりも真っ赤になっていることに気が付いた。
そんな岩泉が愛おしくて、ひろかは岩泉の顔を覗き込んだ。
「ねぇ、先輩?・・・・キスしてください」
「はぁ?そんなもん、するわけねぇーだろっ!調子のんなっ!」
ちぇ。とひろかは頬を膨らませてから笑った。
「冗談です。大好きな岩泉先輩に飴取ってもらえて、こうやって今日だけですけど、手も繋いでもらえて…もう十分です」
ありがとうございます。と言うひろかを見て、岩泉はぎゅっと握っていた力を強めた。
「今日はありがとうございました」
ひろかの家の前まで来て、
手を繋いだまま二人は向かい合った。
「・・・あぁ」
「それじゃぁ・・・」
「・・・おぅ」
別れの挨拶を済ませているのに、どちらからも動こうとしなかった。
ワンワン!と犬の鳴き声が聞こえ、ビクッと二人の手が離れた。
「じゃっ、じゃぁな」
岩泉が咄嗟にひろかに背を向けて歩き出した。
「おっ、お疲れ様です」
岩泉の背中を見つめながら、ひろかはバクバクと振動する胸を両手で押さえつけた。
少しずつ小さくなっていく岩泉の背中。
収まることのない心臓の鼓動。
「いっ、岩泉先輩っ!!」
ひろかは駆け出して、振り返る岩泉に抱きついた。
「先輩…。私、先輩の事が大好きです。今日だけでも手を繋げて幸せって言ったくせに、本当は毎日手を繋ぎたいし、キスもしたいし、岩泉先輩に好きって言ってもらいたいんです」
乱れた呼吸を整えた後で、ひろかはゆっくりと顔を上げ、口を開いた。
「岩泉先輩、私と付き合・・・」
その瞬間、岩泉の手がひろかの口を覆い、う゛っと声が遮断された。
「そういうのは男が言うもんだろ」
へ?と解放されたひろかの口から声を漏れる。
「ひろか、お前の事が好きだ。付き合ってほしい」
ひろかは先ほどよりも強く岩泉に抱きつき顔を上げた。
「先輩、もう一つのお願いは?」
ひろかの要求を察した岩泉は、分かったよ。とひろかの肩に手を置いた。
「目、つぶれ」
「・・・はい」
ひろかはゆっくり背伸びをした。