第9章 【月島 蛍】兄貴はずるい
「ただいま」
「おじゃましまーす」
玄関を開けると、なんだかいい匂いがしてきた。
「あら~、ひろかちゃん久しぶりね~」
出迎えた母親となぜか抱き合うひろか。
「おばさん!今日のご飯何~?私も手伝う~」
騒がしくしている2人をしり目に、
自分の部屋へ着替えをしに行こうと階段に足をかけた。
「おっ!ひろか。久しぶりだな~」
その時、リビングから兄貴が出てきた。
「ひろか、なんか大人っぽくなったな~。
制服も可愛い、可愛い。似合ってる」
兄貴はひろかの頭をくしゃくしゃと撫でた。
髪型が崩れるよー!と膨れるひろかの顔はとても嬉しそうだった。
…だから、一緒に帰るの嫌だったんだよ。
兄貴はサラッとひろかに触れる。
優しい兄貴。
ひろかが慕うのはいつも兄貴だった。
「それでさー、職場の人が…」
久しぶりに全員そろっての夕食。
すっかりひろかは家族団らんの場に馴染んでいた。
「明光はなんだ、その。いい人いないのか」
「…っぶ。なんだよ、父さん。俺まだ22だよ?」
普段無口な父親が口を開いたと思ったら、
気の早い話過ぎて、笑いが起きた。
「そうよ、お父さん!それに、月島家のお嫁さんはひろかちゃんって決まってるんだから!」
母親の言葉に僕たち兄弟は口に含んで入たものを噴出した。
「ねぇ、ねぇ。ひろかちゃん?明光と蛍だったら、どっちがタイプー?」
母親は天然なのか、息子たちの意思や
困った顔をしているひろかのことなんてお構いなしだった。
「やっぱり長男の明光がいいかしら?あぁ、でも7歳差は厳しいかしら…?」
「おっ、おばさん?ちょっと待ってよ~」
慌ててひろかが止めに入る。
アホらしい。と再び箸を取った僕は、
兄貴の発した言葉にまた噴出してしまった。
「俺はひろかだったら7歳差でも全然平気だけどなー」
あらあら~と嬉しそうに笑う母親。
「よかったじゃん。兄貴がもらってくれるってさ。
行き遅れる心配ないじゃん」
僕の言葉にひろかは一瞬止まって、へらへら笑いながら
そうだね。と言った。
僕だって好きで弟に生まれたわけじゃない。