第74章 【岩泉 一】私の言う事は・・・?
次の月曜日、マネージャーのひろかを誘い、彼らは近くのアミューズメント施設に来ていた。
「なぁ、まずはカラオケじゃね?」
そう誰かが提案すると、松川がスムーズに受付で手続きをし、及川が他の女性客をナンパし、岩泉が連れ戻し、花巻がその様子を写メる。
そんないつものやり取りをひろかはケラケラ笑いながら見ている。
指定された部屋に入り、タッチパネルを巧みに操作しながら次々に自分の歌いたい曲を入れていく。
「みなさんとこういう所に来るのって初めてですよね?」
ひろかが言うとおり、よくご飯を食べに行くことはあってもアミューズメント施設に行くのは実は今回が初めてだった。
「すごくワクワクしますっ!」
ニコニコ笑うひろかに男性陣はドキッとしてしまう。
「歌がうまい人ってそれだけで魅力的ですよね」
ひろかが絶妙なフリをしてくれた。
そう岩泉が音痴なことはバレー部の3年の中では有名な話だった。岩泉本人は自分が音痴な事に気が付いていない。それをいい事に、彼らはわざとカラオケをチョイスしたのだ。
「わぁ、及川先輩歌上手なんですね!」
「花巻先輩のラップすごいっ!」
「松川先輩、渋いっ!セクシー!」
彼らは今日の日のために、自分の十八番の曲を練習してきたのだ。ひろかが感動するのを見てドヤ顔をする。
「あっ、次俺だ」
岩泉がマイクを取り、前の方へ行く。
“これで岩泉のイメージが崩れる…”
口元が緩むのを必死で隠す。
花巻は次の曲を探しているフリで。
松川は携帯をいじっているフリで。
及川は隠そうとしているが隠しきれていない。
「何、ニヤニヤしてんだよ!クソ及川っ!」
岩泉は一撃を食らわせた後にすぅっと息を吸った。
~~~♪
ブッと一斉に噴き出す。
「岩泉さんって…音痴なんですか?」
国見がそう尋ねると、花巻が、みなまで言うな。と手のひらを向ける。
「岩ちゃんサイコー!」
及川は岩泉をいじり、松川はまたクククと笑っていた。
岩泉が歌い終わった時、全員がひろかの方を見る。
どうだ!引いただろ?そう言わんばかりにひろかを見る。
「岩泉先輩って・・・」
ひろかの言葉に全員息を飲む。
「岩泉先輩って・・・カッコイイんですね!!」
まさかの発言に一同がこけた。