第74章 【岩泉 一】私の言う事は・・・?
「失礼しまーす」
「ひろかちゃん、お疲れー!」
「お着替え中すいません。ちょっと失礼しますね」
部室で着替える部員達の間をすり抜けて、ひろかは部室にある備品をチェックしていた。
「なぁ、ひろか!今日この後メシ行かね?」
「金田一、ちょっとうるさい。今忙しいから!」
「あっ、ごめん」
ひろかは、テーピングが…とブツブツ言いながら、在庫表を訂正する。ひろかに冷たくあしらわれた金田一に国見がドンマイと声をかける。3年はその様子を見てニヤニヤする。よくある光景だ。
しかし、岩泉だけは違う。金田一がひろかに好意を寄せていることなんて気づいてもいない。
「ひろか、お前メシ行かねーの?」
岩泉はロッカーに向かったまま、ひろかに声をかける。大体いつもレギュラーメンバーとマネージャーのひろかは部活後にどこかで腹ごしらえをするのが日課だったからだ。
「えっ!?岩泉先輩!!デートですか?デートのお誘いですか!?!?」
さっきまで集中して在庫管理をしていたひろかは手に持っていたバインダー・ノート・筆記用具全てを投げ捨てて、岩泉の元へ駆け寄った。
前のめりでわくわく顔のひろかに、振り返った岩泉も若干の動揺を隠せない。
「あっ・・・いや、みんなでだ。アホか!」
「えぇー、せっかくデートのお誘いかと思ったのにー」
あからさまにガッカリし、猫背のまま在庫管理に戻る。
金田一は、俺の時と反応が違う…とまた落ち込み、今度は国見に松川も加わり彼をなだめた。