第73章 【田中 龍之介】ありがとう。
「やべぇ。喉やられた」
結局、延長、延長で3時間以上歌っていた。2人でのカラオケは順番が回ってくるのが早い為、かなりの体力を使った。
駅から地元の小さなバス停に着いて、私達の家の方へ向かう。
「ねぇ、龍。公園寄っていかない?」
私は龍を公園に誘いブランコに座った。龍は隣のブランコで立ち漕ぎを始めて、俺すごくね?ってブランコを高い位置まで動かしていた。
「ねぇ、龍?」
「あ?」
「昨日ね、彼と別れた」
私の言葉を聞いて、龍はブランコを止めた。
「向こうで好きな人が出来たんだって。同じ学部の人。きっと東京には可愛い人たくさんいるんだろうね!」
私が龍の方を向いて、ね?と言っても龍はこっちを向いてくれなかった。
龍の横顔が私よりも辛そうな顔で、こっちまで苦しくなった。
「でもね。私、責めなかったよ?仕方ないよねって言ったんだ。最後も笑顔で別れたんだよ!偉い?」
泣きそうになる自分を抑えようと、わざと明るく言った。龍はそっか。と言って、ゆっくりと私を見た。
「偉いな。お前、すげぇいい女だな」
「でしょ?」
あぁ。と龍は笑った。
その顔がなんだか優しくて堰き止めていた涙がポロポロ流れ出した。
「離れ離れになっても好きだからって言ってくれたのに」
流れ出した涙はポタポタと私のお気に入りのスカートに落ちていく。
「毎日電話で好きって言ってくれたのに….それも嘘だったんだ。他に好きな人いたのに、ずっと嘘つかれてたんだ…」
自分が惨めになりたくなくて考えないようにしていた事を口に出した途端、もう押されることができない。
彼と別れた日。
可哀想に思われるのが嫌で、強がって笑顔でお別れをした。
私は全然平気だよって顔で。
本当は泣いてすがりたかった。
別れたくないって言いたかった。
わんわんと泣く私の横で、龍は何も言わずに座っていてくれた。