第72章 【赤葦 京治】勝つから・・・
「・・ひろかさん。今日も勝ちますから」
「うん!」
最近の赤葦の口癖。
2年になってから、ずっとそう言っている。
もちろんマネージャーとして、やる気になってくれているのはすごく嬉しいし、頼もしい。
シャッシャッという音と立てて、やすりが余分な爪を削っていく。
「赤葦の手は本当にキレイだよね。指も細くて長いしね」
大きな手にすらっとした指。
いつもあんなに強気なトスを上げる指とは到底思えない。
「・・はい、おしまい。感覚どう?」
私がそう言うと赤葦は爪先の感触を確かめる。
自分の指と指と絡ませて、1本1本丁寧に触っていた。
「大丈夫です。ありがとうございました」
赤葦からOKをもらった私は少し古くなった爪やすりを見てふと思った。
「そろそろ、赤葦の爪研ぎも引き継がなきゃダメだね」
私がそう言って笑うと、赤葦は私を睨みつけて口を開いた。
「・・・嫌ですよ、あなたがいいんです」
「そんなワガママ言わないで?ちゃんと引き継ぐから」
ね?と顔を上げると赤葦はじっと私を見つめたまま、何も言わなかった。
「ふふ。赤葦って、本当いつも手触ってるよね」
他の部員が来る間、二人でたわいもないことを話していたが、赤葦がずっと手を触っているから、ついつい指摘してしまった。
「無意識です。なんか・・・落ち着くんで」
「そうなの?」
私がふふふと笑いながら赤葦を見ると、スッと赤葦の手が私の手に伸びてきた。
赤葦のキレイな指が私の指に絡んで、大きな手に私の手は全て包まれてしまった。
「落ち着きませんか?」
「えっ・・・あっ、うん。そうだね」
いきなりの事で、私は少し動揺してしまった。赤葦はそれからもずっと私の指と指の間に自分の指を滑らせて、曲線を描きながら何度も絡めてきた。
「あっ、赤・・葦?もう、分かったから。ね?」
私がそう言うと、赤葦はそうですか。と絡めた指を外した。