第72章 【赤葦 京治】勝つから・・・

「そっ、そろそろみんな来るかな？」

私はドクンドクンと振動する心臓を落ち着かせるために立ち上がって、赤葦に背を向けてた。

木兎、寝坊してないかな～。とか気を紛らわそうと必死に何か言葉を発した。何を話したかは覚えていない。

ザッと靴が砂利に擦れる音が聞こえて、赤葦がその場から立ち上がったことを背中に感じ、ビクッと身体と固めてしまった。

「・・・ひろかさん」

後ろから赤葦の声と腕が優しく私を包み込む。

「あっ、あか・・あ・・し？」

「ひろかさん、俺今日勝つから」

「う、うん」

「絶対勝つから」

「・・・うん」

赤葦の声が少し震えていて、さっきよりも強く私を抱きしめた。

「だから・・引退しないで」

「・・・」

「俺の爪を研ぐのはあなたの仕事でしょ？」

「・・・」

私は赤葦の腕にそっと、自分の手を置いた。
ゆっくり顔だけ赤葦の方に向けると、赤葦は少し寂しそうな顔をしていた。



そんな顔、しないでよ。




「赤葦。絶対勝って・・ね」



「・・はい」








TheEnd