第71章 【菅原 孝支】男の子
自主練も終わって、部員達がぞろぞろと体育館から出てきた。私は邪魔にならないように、入口横の体育館の壁に寄りかかった。
入口から出てきた菅原と目が合う。
「すがわ・・・」
私が声を発すると同時に菅原は目を逸らして、走って行ってしまった。
「清水~!」
菅原はマネージャーの清水さんの元に駆け寄って行った。何か楽しそうに話をしていて、私はそこに入って行くことが出来ない。
「菅原の・・・バカ」
「佐藤?」
ふと顔を上げるとそこには菅原が居て、帰んないの?と声をかけてくれた。
「理香が繋心さんと帰っちゃって、澤村も今日用事あるみたいで・・・」
前なら、一緒に帰ろうよっ!って半ば強引に誘えたのに、どうして私は今こんなに遠まわしに誘ってるんだろう。
「そっか。じゃぁ、気を付けて帰れよ?」
「えっ…」
じゃぁね。と菅原は私に背中を向けた。
どんどん離れていく背中。
待って。
その一言が出てこない。
どんなに下唇を噛んでも、目からは涙が流れてくる。
“菅原・・菅原・・・”
私は俯いて、何度も心の中で菅原を呼んだ。
「なーんてなっ!冗談!」
菅原が振り返って、そう言った。
「・・・えっ!?何泣いて…っ!」
菅原は泣いている私を見て、驚きながら近くに来てくれた。
「泣くなよ。ごめん。冗談だから!なっ?」
私の頬を濡らした涙を、菅原は自分のトレーナーで拭ってくれた。