第71章 【菅原 孝支】男の子
「おはよう!」
次の日の朝、いつものように教室に向かうと見慣れた後ろ姿が見えた。
「すが・・・っ」
“菅原、おっはよ!”
いつもそう言って、肩を叩いていた。でも・・・。
私は一瞬前に出た手をそっと胸の前に戻した。
俯きながら、菅原に気づいていないようなふりをした。
「おぅ、佐藤!おはよう!」
ふと顔を上げると、澤村が私に声をかけていた。
「おっ、おはよう!いたんだ!全然気づかなかった!」
アハハと笑って、隣の菅原を見るといつものように笑っていた。
「おはよう、佐藤」
「・・・おはよう」
よかった。挨拶してくれた。
昨日の夜、ずっと考えていた。告白を断ったことで、もう菅原と話すことも出来なくなるんじゃないかって。
これからも私たちは仲良く友達でいられるの?
教室に入って自分の席に座り、ふと菅原の方を見た。
「あれ・・・ストラップが付いてない」
昨日まで菅原のカバンには私とお揃いのストラップが付いていた。それが今日はもう付いていない。取ってしまったの?私とお揃いが嫌になったの?
澤村と楽しそうに話をしている菅原の横顔を見ていると胸が苦しくなってしまう。
昼休み
理香と一緒に昼食を取っていると、菅原の声が聞えてきた。
「可愛い?これ可愛い??」
「きゃはは!めっちゃ可愛いーー!写メ写メ!!」
声がする方に目を向けると、クラスの女子に前髪をちょんまげにされている菅原がいた。
イェーイ!とピースをしながら、女子の携帯カメラに向かって笑顔を見せていた。
「大地ぃ、俺可愛いべ?」
「何やってんだよ、スガ」
いつもは菅原と澤村と私と理香であんな風にはしゃいでたんだけどな。やっぱり、私たちは今まで通りと言うわけにはいかないのかな。
「次は二つ結びにしてもいい~?」
「えぇー、跡付かない?」
今度は女子達が菅原の後ろ髪を二つに束ねている。
“菅原に勝手に触らないでよ・・・”
心臓がズキンズキンと痛くなる。
結局、朝の挨拶以外、菅原と話をすることはなく放課後になってしまった。