第70章 【菅原 孝支】今日俺は友達を失う。
「ねぇねぇ!次はさ、ゲーセン行かない?」
「いいね!じゃぁ、ジュースかけてエアホッケーしよう!」
俺たちは駅前のゲームセンターに向かった。
店内は話し声が聞こえないほどの爆音。それでもめげずにエアホッケーの場所まで進んでいった。
「うーらーおーもーて!」
2対2のチームを決めた。
佐藤の手と俺の手が同じ表を出していた。
「大地ぃ、負けないからなっ!」
「スガ…望むところだっ!」
カンカンっと音を立てて、パックが行き来する。
「あぁーーーー!!」
大地が打ったパックが何度も俺たちの間をすり抜けてポケットに入ってしまう。
「はっはっは!甘いんだよ、お前ら!」
ドヤ顔でそう言う大地。
「くそぉ…!」
俺が落ちてきたパックを拾うと、佐藤が俺の肩をトントンと叩いた。
「菅原、ちょっと…」
そう言って俺の耳元で手を添えて、こそっと話し始めた。
近い・・・
佐藤の手が俺の頬に当たるか当たらないかとの所でとどまっていて、ふわっとシャンプーの匂いがする。耳には息がかかって少しくすぐったい。
「・・・聞こえてる?」
「えっ!?ごめん、もう一回」
聞えなかったわけじゃない。聞いてなかったのだ。
「澤村のカバー力はすごい!まずは理香を攻めて、澤村が理香のフォローに入った所で、澤村側から華麗に決める!」
ねっ?と、ちょっといたずらっ子な顔で笑う佐藤。
「一本決めるべ!」
「おぉっ!!」
俺たちは作戦通り、ジリジリと点差を詰めた。
「こっちばっかり狙わないでよぉ~!澤村~、助けて~」
この声に俺たちはにやりと笑った。
どんどん大地がフォローに夢中になっていく。
「・・・菅原、今だっ!!」
カンッ!!!
俺が打ったパックがキレイに大地側のポケットに吸い込まれた。
「やったー!!」
佐藤はぴょんぴょんと飛び跳ね、両手を上げて喜んでいる。
「菅原!イェーーイ!」
佐藤の両手が俺の方に近づいてきて、俺はその両手に自分の手を合わせた。
パンっ
ハイタッチのいい音がする。
一瞬で離れる俺たちの手。
このままぎゅっと手を握れたら。
キャッキャはしゃいでいる佐藤を見てそんな事を思うけど、俺たちの手が繋がれることはない。