第69章 【月島 蛍】君の涙があまりにも美しくて僕の心は黒く染まった。
「ひろか、ドリンク持ってきて」
「・・はいっ!」
3年生が引退したからと言って、部活はもちろん毎日あるわけで。
僕たちは3年生がいないことにも少しずつ慣れてきていた。
「「おつかれっしたー」」
部活が終わり、僕は片付けに向かう彼女を追った。
「大地先輩…」
僕の目に入ってきた彼女は、いつも澤村キャプテンが使っていたビブスを抱きしめていた。
そういえば、3年生が引退してからあのビブスだけは使用されていない。彼女があえて用意しなかったのだと確信した。
「つっ、月島くん!?」
僕は彼女からそのビブスを奪い取って、勢いよく他のビブスと一緒に水の中に入れた。
「ちょっ!!止めて!!」
必死で水の中からビブスを出そうとする彼女の両腕を掴んだ。
驚いた表情で僕を見上げてから、またポロポロと涙を流す。
「澤村キャプテンは引退した。君、マネージャーでしょ。ちゃんと今のバレー部を見てよ」
見て欲しかったのは、今のバレー部じゃない。僕だ。澤村キャプテンじゃなくて、僕を見てよ。そう言いたかったんだ。
その後、泣き止んだひろかと一緒にビブスを洗った。
「ねぇ、月島くん…」
「なに?」
「・・・ありがとう」
その日、僕は初めてありがとうの言葉で涙が出そうになった。