第68章 【松川 一静】俺の彼女はドS
「最後の一本もーらいっ!」
私はそう言って、松川からポッキーを奪った。
へへへ。と笑って、食べたい?食べたい?と見せびらかした。
松川はコクンと首を縦に振った。よし。私は心の中でガッツポーズをした。これで形勢逆転。今度は私が松川に意地悪が出来る番だ。
「仕方ないな~。松川に最後の一本譲ってあげよう!」
私はそう言って、手に持っていたポッキーを松川の顔の前に差し出した。
松川が口を開けて近づいてきた瞬間に、ポッキーを松川から離して自分で食べちゃう。それが私の作戦だ。
さぁ、松川。早くおいでなさいっ!私は心の中でそう叫び、表情に出さないようにニコニコ笑っていた。
松川の顔がゆっくりと近づいてきて、口が開く。
今だっ!
私は作戦通り、ポッキーを持っていた手を自分の顔の横に引き戻したその瞬間、グッと手首に力が加わる。松川が私の手首を握っていたのだ。
「絶対そう来ると思った」
そう言って私の肩あたりで固定されたポッキーを松川が食べ始めた。
松川のふわっとして癖のある髪の毛が私の目の前に来る。シャンプーと少し汗の匂いが混ざって、媚薬のように私を惑わす。
手元に温かい息がかかるのを感じて、松川の頭から手先に目線を移す。
「あっ!全部食べちゃダメ!」
どんどん松川の口の中に消えていくポッキー。私は松川に固定された手首に必死に力をこめた。しかし、無情にもポッキーは松川に奪われてしまった。
「食べる?」
松川の口から出た部分はチョコレートのついてない部分のみ。
そんな美味しくない所なんて欲しくない。
「食べるの?食べないの?」
「・・・食べる」
私は松川の口から少しだけ出ている味のしないポッキーを食べた。美味しくない。けど、その後に、松川の口から移動されたチョコレートで口いっぱい甘く美味しくなった。
「美味しかった?」
松川はまた意地悪な顔で笑う。
心臓を丸ごと持って行かれたかのようだ。
もう、お手上げだ。
「まだ、食べたい」
私は松川に吸い込まれるように唇を合わせる。
暖かい松川の舌はまだチョコレートの味がして、何度も何度も美味しいキスをする。
「…で?どっちがSか決めようか?」
もう・・・彼には叶わない。
「どっちでもいいから、もう一回…」