第8章 【影山 飛雄】難題
「今日は佐々木先生がお休みなので、僕が代わりに授業を行います」
普段は1年の受け持ちではない武田先生が教壇に立っていた。
「今日は、おそらくみんなが苦手意識を持っている古文をやっていきます」
クラス中からのブーイングの後、武田先生はこう切り出した。
「まぁ、まぁ。みなさん知っていますか?古文…特に今日勉強する
和歌は恋の歌が多いんですよ?」
武田先生は黒板に和歌を書いて説明し始めた。
「これは、切ない片思いを歌ったものです。
恋をすると、無意識に相手を目で追ってしまったり、
相手が笑うと一緒に笑ってしまったり、
逆に、相手の行動にイライラしてしまったり。
そういう気持ちがこの短い文字の中に表現されているんです」
初めての武田先生の授業は間違えなく
クラスの心をつかんでいた。
放課後。中庭の掃除を終えて教室に戻ると、
昨日、あんな別れ方をしたのに、佐藤は
俺の席の前に座っていた。
「…今日は特にわかんない所はない」
そう告げた俺を佐藤はすごく悲しそうな顔で見上げた。
なんで、そんな顔するんだ?
なんで、俺まで胸が苦しくなるんだ?
教室を出ようとした俺に、佐藤はいつもと違うノートを渡してきた。
「これ、今日の課題。絶対やってね?」
「…あぁ」