第64章 【黒尾 鉄朗】Eighteen
授業が終わって、掃除をする。
そして、まだ明るい時間に俺は教室を出る。
体育館前に来ると、キュッキュッと靴が擦れる音が聞こえる。懐かしい音。ボールがバウンドする音。スパイク音。聞いているだけでホッとする。
ちょっと顔出して行こうか。
一瞬頭を過ぎったけど、すぐにかき消した。
今はもう俺の居場所じゃない。昔の居場所だ。
そう、引退する前までの。
昔なんて大げさって言われるかもしれねーけど、俺にとっては昔。引退してから今日までの時間と、高校3年間のバレー生活の時間が同じ長さに思えた。
朝が弱いのに、自分で起きれたのは朝練があったから。
学校へ向かう道が短く感じたのは、研磨達と一緒だったから。
電車が空いていたのは、朝練のために早い時間に乗車していたから。
教室で話したい事がたくさんあったのは、部活ばっかで教室で過ごす時間が少なかったから。
引退した俺に残ったのは何なのか。
俺からバレーを取ったら何が残るのか。
時々自分がすげー中身のない人間のような気がする。
こんなしょうもない事を考えてしまうのは、最近寒くなってきたからなのか。
ピロン
携帯が鳴る。
「木兎・・・」
俺がメールを開くと、確か誕生日だったよな!おめでとう!元気してっか?俺超ゲンキ!と一方的な内容の文章と共に、木兎が赤葦と一緒にバレーをしている写真が添付されていた。
「バレーで飯食っていく奴は気楽でいいよな」
なんて、無責任なことを言ってみる。
バレーで飯を食うことがどんなに大変かくらいわかっている。ただ、今日は見逃してほしい。
まだ体育館に行く理由がある。それだけで木兎に嫉妬してしまうんだ。
一人空を見上げると、吸い込まれそうな感覚に陥って、このままどこか遠くに行ってしまいたい。そんな事を思ってしまうのは、きっと空がキレイだったからだ。