第8章 【影山 飛雄】難題
「佐藤、ちょっといいか?」
あれから、俺は授業でわからない所があった時は
佐藤に聞くようになった。
クラスで自分から話しかける女子なんて佐藤くらいだ。
「練習キツイの?いつも寝てるよね」
教科書に目を通しながら佐藤は俺に聞いた。
「意味が解らないから、お経のように聞こえる…。
それに、ここ窓側だから天気のいい日は気持ちいい」
ふーん。と机の上の教科書を自分の膝の上に置いて、
佐藤は机に覆いかぶさった。
「確かにこれは気持ちいいかも~」
ふっと香ってきた佐藤のシャンプーのにおい。
ドクン
なんだ。この感じ。
「佐藤、これやる!」
先日、部活のみんなで行ったゲーセンで取った
クマのキーホルダー。
「わぁー!これずっと欲しかったんだー!いいの?貰って…」
「あぁ…たまたま取れただけだし、こんなの俺付けないし」
嬉しそうにすぐに鞄にキーホルダーを付けて
どう?と見せびらかしている。
本当の事を言うと、菅原さんがこのクマが女子に人気だって言うから、
何度も挑戦して、やっと一つ取れた。
佐藤の嬉しそうな顔を見てたら、口元が緩んでしまう。
「そういえばさー、影山、こないだのキーホルダーどうしたの?」
「あぁ…クラスの女子にあげました」
・・・・。
「影山が女子にプレゼントーー!」
「なんだ、なんだ?彼女か?彼女なのか?」
「そういえば、何回もやってたな。結局いくらかかったんだ?」
「へぇ~、王様もなかなか可愛い事するんだね~」
部室中が大騒ぎをしていた。
「何のことっスか?」
みんなが何で騒いでいるのかわからなかった。
西谷さんが飛び掛かってきて、田中さんが悔しそうにしていた。
菅原さんはなぜか子供の成長を感じた親のような顔で俺を見ていた。
「はいはい!ほら~鍵閉めるぞ!
そして、次のテスト。赤点取った奴は…覚悟しておけよ?」
澤村さんの一言に全員凍りついた。