第63章 【月島 蛍】僕は君が大っ嫌い。
案の定、ひろかは玄関で空を見上げながらため息をついていた。
「ひろか・・・・」
僕が声をかけようとした時、彼女の背後から菅原さんが現れた。
「居た居たー!大地、ここに居たよー」
「おぅ!やっぱり傘持ってなかったか!これ置き傘あったから使っていいぞ。風邪ひくなよ」
先輩達から傘をもらった彼女はありがとうございますと笑っていた。
「あれ?月島?ひろかのお迎え?」
東峰さんが僕に気が付いてそう言うと、全員の目線がこっちを向く。
「別に。たまたま忘れ物取りに来ただけです」
「そっか。でもよかった。月島、ひろかのこと頼むな」
先輩たちはそう言ってひろかを置いて帰って行った。
「月島くん何忘れたのー?」
「君には関係ないでしょ」
「あははー、そっかー。でも月島くんが来てくれてよかった」
すごい雨だねーなんて言いながら空を見つめ、寒いのか、セーターから少し出た手にハァーと息を吹きかけている。
君は僕がいないと生きていけないんじゃない。
君は何にも出来ないけど、知らない間にいつも誰かが手を差し出すんだ。
髪を結ぶのだって、おにぎりを開けるのだって、突然の雨を防ぐのだって。
君が必要としているのは、「僕」ではなくて「助けてくれる誰か」なんだ。
「僕は君が嫌い」
「えっ?」
「そうやって人に頼ってばっかで、自分で何にも出来ない君が僕は嫌いなんだよ!」
僕はそう言い残して歩き出す。
ついに言ってやった。僕の気持ち。
なのに何でこんなに心臓が圧迫されるのか。これも全部君のせいだ。本当に君が嫌いだ。
「月島くん、待って!!」
バシャン
水の弾く音が聞こえて咄嗟に振り返ると、僕を追いかけてきた彼女が水たまりの上で転んでいた。
「ちょっ…」
僕が駆け寄ると、雨でも水たまりでもない水滴が彼女の目から流れ落ちている。
「月島くん…待って・・」
「・・とりあえず、中に入るよ」
全身水浸しの彼女をもう一度校内に連れて行った。