第63章 【月島 蛍】僕は君が大っ嫌い。
「本当、何してんのさ」
座った僕の両足の間に座らせて、タオルで彼女の頭を拭いた。
グスングスンと鼻をすすりながら、僕を見上げてポロポロと涙を流す彼女はいつもよりも更に幼く見えた。
「月島くん…っ、うっ…月島くん…」
「・・・何?」
彼女は頭を拭く僕の両手首を握って動きを止めた。
「月島くんに褒めてもらいたくて清水先輩に髪結んでもらったけど、やっぱり頭を触られるのは月島くんがよくて」
「・・・うん」
「月島くんに褒めてもらいたくて自分でおにぎりを開けてみたけど上手くいかなくて。でも他の人にキレイに開けてもらっても月島くんが作ってくれたおにぎりじゃなくちゃ美味しくなくて」
「うん」
「傘が無くて困っていたはずなのに、傘を貸してもらってガッカリしたの。月島くんと一緒の傘に入れなくて」
「うん」
ヒックヒックと肩を揺らして、必死に呼吸をするひろか。僕はそっと頭上のタオルを外して両手で彼女の頬を包み、顔を上げさせる。
「それで?」
「ちゃんと自分で何でも出来る様になるから…月島くんが居なくても生きていける様になるから・・だから嫌いにならないで…」
ぎゅっと目を瞑るとまた涙があふれ出してきて、寒さで冷え切った僕の手に吸い込まれる。その涙は暖かくて、その部分だけが妙に熱を帯び、少しすると冷えていく。
「君みたいな人が自分で何でも出来るようになるなんて一生無理でしょ」
僕は脱いだ学ランを彼女の肩にかけた。
「だから頼るのは僕だけにしなよ。他の人の迷惑だから」
「・・・え?」
「だから、僕だけにして。髪を結ぶのも、おにぎりを開けるのも、一緒に傘に入るのも。あと泣くのも僕の前だけにして」
そう言って彼女を抱きしめた。