第62章 【花巻 貴大】男と女
シュパッ
しなやかなフォームで先ほどのボールをレイアップで入れる。ゴール真下に落ちたボールをドリブルしながら、今度は俺の居る3ポイントラインまでやってくる。
ふぅー。と息を吐いて構え、さっき俺が外した位置から簡単にシュートを決めた。
「お前、嫌がらせかよ」
俺がそう言うと、もう一度同じラインからシュートを打つ。
しかし今度は全然ゴールと離れた位置でボールが落ちた。
佐藤はやっぱ届かないか。とボールを拾う。
「ワンハンドシュート。カッコイイよね」
ボールを拾った佐藤はフェンスに寄りかかって、ボールをくるくる回し始めた。
「昔ね、お兄ちゃん達がやってるのを見てて、大きくなったら私も出来るんだって思ってた」
左手はそえるだけ!なんて、どこかで聞いた名言を言いながらワンハンドで空中にボールを浮かせる。
「でも大きくなればなるほど、私はお兄ちゃん達とは違うんだって思い知らされた。私は男の子じゃない。女の子なんだってさ」
ハハハと泣きそうな顔で笑う佐藤を見ていると、こっちまで喉の奥がキューっと狭くなる感覚に陥る。
俺は佐藤の隣に立って、黙って話を聞いた。
「それでもね、頑張ったんだよ。いっぱい練習したんだよ。でもさ、昔テレビ番組でどっかの大学の教授が言ってたんだ。女性はどんなに頑張っても80%しか力出せないんだって。でもね、男性は120%出せるんだってさ」
さっきまで空中に浮かせていたボールをぎゅっと抱きしめる。ググっとボールの擦れる音が佐藤の心情を表していた。
「女性は本能的に自分を守ろうとするんだって。それは子供を産むためだって言ってたかな。これ以上やったら体が壊れてしまうって勝手にブレーキかけるの。でも男性は壊れるまでブレーキを踏まないんだって」
「なんか、男バカみてーじゃん」
アハハ、と今度はいつもの顔で笑った佐藤を見て少しホッとする。
「私はバカになりたいよ。自分が壊れるまでバスケがしたい。もしそれが出来たらどんなに気持ちがいいのか実感したい」
男の俺には佐藤が抱えている思いを理解することは出来ない。俺は男だから。佐藤が欲しいと思っている物を男と言うだけで全て持ち合わせているのだから。