第62章 【花巻 貴大】男と女
「ねぇ、花巻。・・・手繋いでいい?」
「・・・ん!」
佐藤は差し出した俺の右手を握った。
「やっぱ大きいね。ゴツゴツしてて、羨ましい」
「あぁ…」
俺はぎゅっと手に力を入れた。
佐藤はゆっくり俺の正面に立ち、繋いでいない右手を俺の顔の方へ伸ばした。
「喉ぼとけは男の子のシンボルだよね」
そう言って俺の喉ぼとけを触って、スーッと下に下げていく。
「この広い肩幅も、筋肉質な腕も羨ましい」
肩、腕を触って、右手が俺の左胸に移動される。
そして繋いでいた左手を自分の胸の上に置いた。
「胸なんていらなかった。花巻みたいな…男の子みたいな胸がよかった」
「それ、貧乳女子に失礼だぞ」
ふふふと笑って、そっか。と言う。
「心臓は同じくドクドクいってるのにね」
「だな」
「なぁ。・・・抱きしめてもいいか?」
「・・・うん」
佐藤は俺を見上げて、いいよと言った。
抱きしめた佐藤の身体は小さくて、細くて、いくら運動部だからと言っても女は女だ。
どんなに強く抱きしめて、どんなに密着しても俺と佐藤は同じ身体にはならない。むしろ、近付けば近付くほど自分たちは違う性別なんだと思い知らされる。
「そろそろ帰るか」
「うん」
佐藤は男になりたかったのかもしれない。
けど、俺はお前が女でよかったって思う。
でもそんな事は言えない。
ただ・・・
「そーいえば、アイスの賭けどーなったんだっけ?」
「忘れたわっ!しょーがねーから俺が奢ってやるよ」
「やったー!!」
小さく柔らかい佐藤の手と
大きくゴツゴツした俺の手。
自然と触れて、自然と繋がれた。
いつか俺が「女に生まれてきてよかった」って思わせてやりたい。
俺は繋いだ手を強く握った。
TheEnd