第58章 【山口 忠】みにくいアヒルの子
「私あのお話嫌いなんだよね」
「えっ?なんで?」
「だって矛盾してるじゃない?他人と違っているからといって悲観するな。いつか大成する可能性を秘めている的な話なのに、結局はアヒルじゃなくて元々美しい白鳥だったなんてさ」
あぁ、確かに。と俺は昔読んだ物語を思い出す。
「ねぇねぇ、なんでアヒルの子が白鳥になったと思う?」
佐藤さんは外を眺めながらそう言った。
「えっ…卵が間違ってアヒルのお母さんの所に混じってただけで、初めから白鳥だったんじゃないの?」
そっか。彼女はそう言って立ち上がり、窓際に移動した。
俺もその後について行って、一緒に教室の窓からグラウンドを見降ろした。
「・・・じゃぁ、山口は白鳥じゃん」
少しの沈黙を破ったのは彼女だった。
「あっ、いや、そう言う事じゃなくて…」
焦った俺を見て、佐藤さんはアハハと笑った。
「私ね、昔苛められていたの」
彼女が急にそんな事を話し始めた。なんで?そう聞くとふふ、と笑った。
「この茶色い髪とウェーブがかったくせ毛、生まれつきなのに生意気って言われてさ」
そう言って、長い髪の毛を指に巻きつけ、パッと離す。それを繰り返しながらまた口を開いた。
「その当時、私はこの醜い髪の毛が大っ嫌いだった。どうしてみんなと同じキレイな黒色の真っ直ぐな髪じゃないんだって思ってた」
「そっ!そんなことないよ!佐藤さんの髪の毛は醜くないよ!きっ…きれいだよ!!」
俺がそう言うと、佐藤さんはありがとう、と笑った。