第58章 【山口 忠】みにくいアヒルの子
「今日、八神が休みだから男子の日直は山口やってくれ」
朝のホームルームで担任がそう言った。
「はい」
俺は面倒だなと思いながら返事をする。ふと黒板に目を向けると、日直:佐藤・八神と書いていた。
担任が八神の文字を消して、山口と書き換える。
そっと佐藤さんの方を見ると、佐藤さんもこっちを見ていて、ニコっと笑った。
教室の掃除が終わり、俺は佐藤さんと一緒に今日の日誌を書いていた。
「えっと…3時間目が~」
「現国だね」
「あっ、そっか」
佐藤さんの書く文字はとっても美しかった。
「キレイな字だね?」
「そう?普通だよ」
「ツッキーも字キレイなんだ~」
「ふふ。本当二人仲イイよね」
佐藤さんはそう言って俺を見た。
大きな目に、色素が薄いふわっとした髪の毛。
白い肌に、華奢な身体。
爪はキレイに磨かれてツヤツヤしていた。
「佐藤さんの髪の毛って地毛?」
「…うん。可愛いでしょ?」
「えっ…あっ、うん!」
佐藤さんは私の自慢のチャームポイントだよ!って笑っていた。
「佐藤さんは白鳥だね」
「えっ!?」
「ツッキーも白鳥。俺はみにくいアヒルの子だ」
俺は何を言っているのか。
そして、それを言って彼女に何を言ってほしかったのか。自分の発した言葉に顔が真っ赤になってしまう。
「みにくいアヒルの子か…」
佐藤さんは持っていたシャープペンを置いて、頬杖をつき俺を見つめた。
「確かに山口はみにくいアヒルの子かもね」
「だよね…」
彼女の言葉に肩を落とす。
分かっていたことなのに何を落ち込んでいるのか。
自分のバカらしさに嫌気がさす。