第7章 【武田 一鉄】悪戯な彼女
「せん…せ?…ねぇ、先生?」
あれからどれくらい経ったのだろう。
眠っていた彼女を待っていたはずなのに、
どうやら僕の方が寝てしまったようだ。
「ごっ、ごめん!」
焦って起き上がる僕を見て、くすくす笑う彼女。
「なんか、新婚さんみたい?」
久しぶりに見た、僕をからかう彼女の悪戯な笑顔。
すごく愛おしくて抱きしめたくなる。
「せんせ?どうかした?」
僕の顔を覗き込み、心配そうに見つめる彼女をぎゅっと抱き寄せた。
「えっ…!?せんせ…い?」
「…やっぱり佐藤さんの気持ちには答えられません。
これからの君は色んな可能性があるんです。
大学に進み、好きなことを学び、たくさんの人に出会って
たくさんの恋もするんだと思います。
だから、まだ若い君の人生を僕は縛ることは出来ないんです」
彼女を愛おしく思う気持ちと教師としての思い。
俺はこの葛藤に押しつぶされそうだった。
「せんせ?…ごめんね、困らせて。もうやめるから」
さようなら。彼女は僕の腕の中から消えて行った。