第7章 【武田 一鉄】悪戯な彼女
「んー。今の成績だったら、A大かN大あたりですかね?」
3年生2回目の進路指導。
前回とは違って彼女とも現実的な話が出来ている。
「先生、私…K大に行きたいなって…」
「K大?…それだと…もう少し頑張らないと…。
でもなんでK大なんですか?」
彼女がふと目線をそらす。
「先生の…先生の卒業した大学だから…」
顔を真っ赤にして咳払いをする彼女に
胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
「あっ!でもね、理由はそれだけじゃないの。
ちゃんと考えてるから!だから…応援してくれる?」
「わかりました!頑張りましょう!」
それからというもの。
彼女は必死に勉強に励んでいた。
休み時間になると、何かと理由をつけて僕の所に来ていたのに
今では職員室に来ることはほとんどなくなった。
「あら、武田先生。最近ゆっくりご飯食べれるようですね」
おそらく彼女に振り回されていた事を言っているのだろう。
周りの先生達がアハハと笑っていた。
「若い先生はいいですねー」
僕が顔を赤くしてうつむくと、教頭先生が口を開いた。
「武田先生、困りますよ。女生徒と妙な噂たてられちゃ。
彼女も優秀な子ですから、これからの将来に泥を塗るようなマネは…」
それから昼休みの間、延々と教頭先生の説教が続き、
結局お昼をゆっくり取れずに終わってしまった。
ホームルームの時間になり、
僕が教室に入ると、彼女の席が空いていた。
「あれ?佐藤さんは?」
「さっき保健室に運ばれてましたー」
6時間目の体育の時間に貧血で倒れたそうだ。
僕は早々にホームルームを終わらせ、保健室へ向かった。
「武田先生、ちょうどよかった。今から会議があって…」
養護教諭の山本先生が僕に引き継ぎをして、保健室を出て行った。
カーテンで仕切られたベッドには彼女が眠っていた。
寝息を立てている。遅くまで勉強してたのか。
僕はベッドの横のイスに腰をかけ、目を覚ますのを待っていた。