第7章 【武田 一鉄】悪戯な彼女
「卒業生代表」
あれから、彼女との会話は教師と生徒としての最低限。
彼女は決して僕の元へは来なかった。
卒業式も終わり、校内外で生徒達が3年生の卒業を惜しんでいた。
僕は彼女に声をかけることなく、職員室へ戻った。
初めてもらった色紙には生徒たちが僕へメッセージを書いてくれていた。
“先生は春が好きですか?…私は初めて嫌いと思ってしまいました。佐藤ひろか”
僕は急いで職員室を出て進路指導室へ向かった。
そこには、春風に吹かれた彼女が立っていた。
「せん…せ、どうしてここに…」
もう、教師とか生徒とか、そんなのどうでも良くて、
ただ彼女を抱きしめたい。そう思った。
「ねぇ、せんせ?卒業祝いくれる?」
僕はゆっくり彼女の元へ向かった。
「抱きしめてください。先生を困らせるのはこれで最後にするから…その…」
「…いいですよ」
僕たちは進路指導室のカーテンを閉めて
強く抱きしめあった。
あれから5年。
僕もすっかり教師が板についてきた。
「それでは新任の先生をご紹介します。
佐藤ひろか先生です。」
始業式。体育館のステージで生徒の前に立っているのは
すっかり大人になった彼女だった。
始業式が終わり、僕は進路指導室へ向かった。
「佐藤さん、新任おめでとう」
「ありがとうございます、武田先生」
「でも、まさか教師になって戻ってくるとは思わなかったよ」
ハハ。と笑う僕にあの時と変わらない悪戯な笑顔を見せてくれた。
「せーんせ?
私はもう生徒じゃないし、学生でもないです。
希望の大学にも通って、好きなことを学びました。
色んな人にも出会いました。
そして、なりたい職業にも就けました。
それでも、先生の答えはあの時と一緒ですか?」
彼女は僕が気にする問題を全て解決して戻ってきたのだ。
もう、彼女には到底頭が上がらない。
「佐藤ひろかさん、僕のお嫁さんになってください」
The End