第57章 【二口 堅治】Little Red Riding Hood
鎌先がトイレから帰ってきて、他の空いている向かえの席に腰をかけた。
その様子を見て、二口くんはデンモクを手に取り、その半分を私の膝、反対半分を自分の膝の上に置いた。
「ひろかさんって、どんな曲歌うんスか?」
私がデンモクを覗くと、二口くんとの間に置いた手を彼が握ってきた。
「・・・ちょっとやめてよ」
小声でみんなにバレないように注意をする。
けど、彼はそれでも手を離さずデンモクを操作している。
私は彼の耳元に手をやって、少し大きな声でもう一度言った。
「ちょっと、離してよ」
そう言うと彼も私の耳に手を当てて話し始めた。
「イヤですよ。あんまり不審な動きしてると鎌先さんにバレますよ?」
彼はまたニッと笑って、デンモクを操作する。
膝の上に置いたデンモクで他の子達からは私たちが手を繋いでいるのは見えていない。
すると、さっきまでただ上から握られてただけの手を今度は指と指を絡めた恋人繋ぎにしてきた。
彼の大きな手が私の手を包み込み、彼の手の暖かさを手のひらいっぱいに感じた。
二口くんはまた私の耳に手を当てた。
「ひろかさんの手、小さいっスね。可愛い」
私が彼を見上げると、ハハってまた爽やかな笑顔を見せた。
私の心臓はどうしてしまったのか。
彼は誰にでもそんなことするんだ。
分かっているのに、ドクドクと鼓動が早くなる。