第7章 【武田 一鉄】悪戯な彼女
「ねぇ、先生?春って好き?」
そう言って進路指導室の窓を開ける彼女。
春風がとても気持ち良かった。
「そうですね…割と好きですかね」
そっか。と大人びた表情で笑った。
「私は…すっごく好き!四季の中で一番好きなんだ」
そういう彼女の横にあるパイプ椅子に僕は腰をかけた。
日当たりの良い進路指導室は
心地よい温度で、なんだか安心する。
少しの間、僕達は無言の時を過ごした。
すると、彼女が思い出したかのように僕の目の前に立って口を開いた。
「先生?私、大学行くことにしたよ」
僕は驚いて彼女を見た。
正直ホッとした。
彼女は進学クラスでも上位の方で、ある程度の大学ならどこでも合格できる。
「あっ!でも先生のお嫁さんになるって夢はあきらめてませんよ?
…じゃーね、先生!」
彼女は悪戯な笑顔で進路指導室を後にした。
「お嫁さん…か」
教師になったばかりで結婚なんて考えたことない。
ただ、どんな人と結婚するのかなーと考えることもある。
ぱっと浮かぶのはいつも彼女だった。
「いやいやいや!!ないないない!!」
僕は彼女の開けた窓を閉めて、職員室へ戻った。