第55章 【烏野高校排球部】三年生の事情
「4組は6時間目体育みたいだから、あと一時間寝ていきなさい。出来れば部活も休んで欲しいんだけど…」
「それは無理です!!」
「脳梗塞とか笑えないわよ?一生バレー出来なくなるの」
私がそう言うと、彼はうっ、と固まった。
「まぁ、油断は禁物だけど、その様子なら大丈夫。ただ、なるべくメニューを調整しなさい。そして、少しでも違和感があったらすぐ病院に行くこと!」
「・・・はい」
私はもう少し横になってなさい。と彼に布団をかけなおした。
「ねぇ、ひろか先生・・・」
「なんでしょう?」
「俺、怖いかな?」
「へ?」
「夢でも怒ってるって・・・」
いつもはしっかり者の主将くんも、保健室ではただの高校生だ。
「だってあいつら、すぐ喧嘩したり、ふざけたり、他校生に絡んだり…」
大変そうね。と言うと、全くです。とため息をついた。
「スガはあいつ結構ふざけるんですよ。たまに2年とはしゃいで、部室の物壊したりするし・・・」
「旭は、本当へなちょこで、ネガティブ過ぎてイライラします」
「それから西谷は・・・」
彼は次々と部員たちの苦労話をしていた。
「澤村くんが主将じゃなかったら、バレー部大変そうね」
私がそう言うと、彼は少し黙ってまた口を開いた。
「違うんですよ、先生。
スガが後輩達とふざけるのは、少しでも距離を縮めるためなんです。俺たち1年の時は先輩に理不尽なこと言われたり、呼び出されてしごかれたり…。仲良子よしでやるつもりはないけど、チームプレイなのにこれじゃいいプレイ出来ないってずっと気にしてたんです。
だから、スガは一緒にふざけたりして、後輩たちとの壁を取ってるんですよ。だから、あいつは後輩たちに慕われるんだと思います」
彼は布団をぐっと握った。
「俺はついつい部としての事を考えて色々言っちゃうから…。でもスガは1人1人をしっかり見て、フォローしてくれてて。俺にはそんなこと出来ないから…スガはすごいんですよ。俺なんかよりずっと…」
コンコン
ノック音がしたので、私はベッドを離れてドアに向かった。
「武田先生!?」
「あっ、あの…澤村くん大丈夫でしょうか?」
話を聞きつけ、心配してきた先生に今日の注意事項を伝える。武田先生はメモを取って職員室に戻って行った。