第55章 【烏野高校排球部】三年生の事情
「澤村く~ん!ココアでも飲む~?」
「えっ、あっ、はい!」
「はい、どうぞ」
ありがとうございます。と身体を起こした彼がマグカップを受け取った。
「それで?東峰くんはどうなの?」
「旭は…あいつ本当にへなちょこなんですけど…。でも、俺ら3年の中で1番先にレギュラーになったのが旭だから、試合ではいつも俺たちを引っ張ってくれたんです。俺は旭みたいなプレイが出来ないから正直羨ましい。あいつがスパイク決めると、一気に士気が上がるんです」
何か悔しいと口を尖らせながら、ココアをすすっている。
「あと…俺があいつに強くあたるのは、初めは打たれ強くなればいいって思って言ってたんですけど、今は・・・」
「今は・・・?」
「どんなに俺がキツく当たっても、それでも俺と一緒にいてくれるから、安心・・・する。
本当は叱るのって結構しんどくて、時々ふと部員たちは自分の事どう思っているのかって不安になるんです。でも、一番キツく当たっている旭がいつも俺の隣にいてくれたら安心出来るんです…」
いや、でもあいつがへなちょこなのが悪い!と照れ隠しでそう言っていた。
「ウジウジ悩んでる俺を、「しっかり者の主将」にしてくれているのはあの二人なんです」
「そう・・・」
私は立ち上がって、ベッドから離れた。
「それ飲んだら、もう一回寝なさいね?」
「・・・はい」
澤村くんはもう一度眠ってから教室へ戻っていった。
今日も一日慌ただしい日だった。
私は保健室の窓を開けて、締めのコーヒーを飲む。
高校生。
周りが大人に見えて、自分だけが子供のままだと感じる。成功、挫折、葛藤を繰り返す。
自分の向き不向きや現実を知って行き、
それでも理想に近づきたくて必死にもがく。
一番人間として楽しい時期なんじゃないか。
私はそう思う。
だから、高校はいい。
そんな生徒達を見て、私もあの頃に戻れるから。
「旭ぃ、早く来いよ~」
「待てよ~。置いてくなよ…」
「ヒゲちょこ!早くしろっ!」
「ヒゲちょこって…」
「猫背っ!」
「痛っ!!」
「「「アハハハハハ」」」
私は、開けた窓を閉めて保健室を出る。
入口には
【明日もきっといい日】
のプレートをかけて。
TheEnd