第55章 【烏野高校排球部】三年生の事情
「ここに座って。このガーゼで少し頭押さえてて」
圧迫止血だ。
私は生徒に厚みのあるガーゼを渡し、自分の手に医療用手袋をはめた。ピンセットやコットン、消毒液等を用意して、生徒の元へ行く。
「ここ皮膚薄いから、しばらく止まらないかもね。頭痛はある?」
「いえ、大丈夫です」
頭は一番危険。私は細心の注意を払う。
「一体何をしたの?」
「いや、あいつらが教室でペットボトル投げ合ってて、たまたま通った俺の頭にぶつかって…」
「なるほど」
今私の心臓はバクバクだ。
なかなか止まらない出血。頭という場所。
自分で処置できる範囲なのか、はたまた病院へ連れて行くべきなのか。
でも、絶対にそれを生徒に悟られてはいけない。
生徒が不安になるような事はしてはいけないのだ。
しばらく経って、血は止まった。
今の所、頭痛は無いようだったが油断は禁物。
その時は大丈夫でも後からくる場合がある。
私は安静にさせるため、彼をベッドに寝かした。
「あなた、何年何組?名前は?」
「3年4組、澤村大地です」
澤村大地。3年4組。バレー部主将。
彼が例の…私はそう思いながら、処置した場所を片付けた。
それから少しした時、ベッドからスースーと寝息が聞こえた。
お昼後のぽかぽかした天気は彼の眠気を誘ったのだろう。
私は保健室のドアに「寝ている生徒がいます。入室は静かに!」のプレートをかけた。
「いただきます」
今度こそ、私はお昼ご飯を頂いた。
本日3杯目のコーヒーと共に。
「おっ、おい!!お前らっ・・・」
ビクッ
私はそーっとベッドのカーテンを開けた。
そこにはまだ眠っている澤村くんがいて、
ただの寝言だったことに安心する。
「ふっ、どんな夢見てるんだか・・・」
私は、ふふふと笑って、淹れたてのコーヒーを持って、ベッドの隣に置いた丸椅子に座りながら、食後のコーヒーを楽しんだ。
「・・・んっ、ひろか先生?」
「あぁ、起きた?頭はどう?頭痛しない?」
「はい。大丈夫そうです。俺結構寝てました?」
私はそうねぇ。と考え込んで彼に言った。
「なんか、寝言で怒ってたわよ?」
それを聞いて彼は頭を抱え、通りでちょっと疲れてるはずだ。と言った。